糺の森コラムColumn

Vol.16

糺の森が世界遺産

下鴨神社を含む「古都京都の文化財」がユネスコの世界文化遺産に登録されて26年、当時434だった遺産の数は1121件まで増えた。

世界遺産も45年を経て国内外でよく知られるようになり、審査方法や保存管理補法が発達してきた。日本初の1993年の法隆寺と姫路城の翌年、古都京都が登録された時代と今では状況はすっかり変わった。今になって古都京都に含まれる宇治市、大津市と共に京都市がユネスコに提出する包括的保存管理計画策定が進む。17の社寺と二条城、それぞれの保存管理計画策定も求められ、下鴨神社でも境内整備とともに、保存活用計画策定が進んでいる。

世界遺産はその不動産が登録される。建物だけでなく土地が世界遺産であり、下鴨神社では、御蔭通り以北の境内の大部分、糺の森が世界遺産本体に登録されている。それを取り巻く市街地に緩衝地帯が定められている。緩衝地帯とは、もともとは、自然遺産保護のため、本体の周りに外界の悪影響を緩和するために設けられた。これを文化遺産に応用した。神社と糺の森を保護するため開発行為が規制される。賀茂川と高野川の間、対岸の一部にもかかる。賀茂大橋と北大路間、北西の一部を除く、下鴨南部一帯の広い市街地である。

そもそも登録に際して、文化庁は2棟の国宝と当時でも50棟以上の重要文化財建造物、そして国史跡の賀茂御祖神社境内を一括して世界遺産本体に、京都市市街地景観条例(当時)の風致地区などを緩衝地帯に登録した。京都市は、登録直後の1995年に市街地景観整備条例を、また2007年に新景観政策を施行した。現在では第三、第四種の風致地区の他、歴史遺産型美観地区、山並み背景型美観地区などに指定されている。

下鴨神社緩衝地帯は、国内はもとより、世界的に見ても丁寧な世界遺産保存管理の例として内外から見学者が訪れる。10メートルという高さや40%の建蔽率。20%の緑被率に加え、建築デザイン基準に特徴がある。新築建物は、屋根や軒庇の形状と色彩の外観の基準が厳しい。お社と糺の森に相応しいデザインで、歴史的風土を保全することになる。

世界遺産にはOUV、「顕著で普遍的」と訳される価値、つまり世界中の人が、「これは凄いホンモノだ」、日本の神社の中で尊厳と崇高さにおいて傑出していると思う価値がある。そのお姿を整えるデザイン基準である。だから新しい建物が建つたびに綺麗になった。26年の成果である。

世界の専門家にはよく知られ、視察が多い、でも地元の皆さんは、あまりご存知ない。近年は外国人観光客も増えていた。鴨川公園が少しきれいになった、地価が上がった、規制が厳しく建替え難いといろいろなご意見を伺う。でも世界遺産を守る神社と財団の長年のご努力に感心は薄い。

世界文化遺産には社寺の他、教会やモスクが多い。神聖な祈りの場として、それぞれの宗教の誠実さが顕れている。静謐な糺の森、清く澄んだ御手洗川の恵みを尊ぶことから祈りが始まる。壮大な伽藍や聖画の代わりに清流と古の森を世界遺産に登録した。白神山地や屋久島と違い古都の営みとして、長年人々が寄り添う信仰の森を世界文化遺産にした。糺の森が世界遺産である認識を常に新たにしていきたい。

 

(糺の森財団理事 宗田 好史)

令和2年9月30日

 

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