糺の森コラムColumn

Vol.14

台風21号による糺の森での樹木の被害とその再生に向けて

台風による樹木の被害状況

平成30年9月4日に台風21号が、さらに30日には24号と、約1か月間に2つもの大型台風が京都を直撃しました。これらの台風により、糺の森でも多数の倒木が発生し、その被害状況を把握するため、林内での樹木調査を行って参りました。調査の内容としては、平成22年に生育が確認された幹直径10cm以上の樹木、3653本を再び見て回り、以下の4つの形態の台風被害の有無を記録しました。

「根返り:根こそぎ倒れる(写真1)」、「幹折れ:主幹が途中から折れ、樹冠(樹木の上部に広がっている枝葉の層)が欠損する(写真2)」、「大枝落ち:樹冠の一部が落下する(写真3)」、「巻き添え:周囲の根返り木、幹折れ木の間接的被害を受ける(写真4)」

その結果、平成31年3月3日の時点で、288本の樹木に台風被害が見られました。被害の形態は、大枝落ちが114本と最多で、被害木の約40%を占めていました。次いで、根返りが89本、幹折れが69本、巻き添えが16本の順でした。

樹種別では、ムクノキの被害木が44本と最も多く、次いでアラカシが38本、エノキとケヤキが各々34本となっていました。

 

写真1

 

写真2

 

写真3

 

写真4

 

台風被害からの森の再生

今回の台風で、幹の途中から大きく折れた樹木が多数見られました。しかし、樹種の中には、幹の大部分が損傷を受けても、根元部分に蓄えた栄養分を基に、また根株から新しい枝葉を伸ばすものがあります。これは萌芽再生と呼ばれる再成長のしくみで、カシ類などブナ科の樹木は、特にこの能力が高いと言われています。決して、今回の被害木の全てが枯れたわけではなく、いくつかの樹々では、幹が大きく傷つきながらも、春以降、再びまた芽を出し、逞しく成長してゆく姿が見られるはずです。

その一方で残念ながら、台風被害により枯れてしまった樹木もやはり存在します。しかし、強風などによる大木の枯死は、森の生態系での重要な過程ともされています。通常、森の上層では大木が枝葉を大きく拡げ、天井を塞いでいます。そのため、下層の幼木は、上空からの光を僅かしか受けられず、充分に育つことができません。しかし、大木の幹が大きく折れたり、倒れたりすることで、森の天井に穴が開いた「ギャップ(写真5)」が生まれます。ここでは太陽の光が地表面まで届き、下層の幼木が育つ環境となります。

また、地表面に落葉が厚く堆積した状態だと、芽生えの小さな根は、その層を突き抜け土壌まで達することが難しく、中々定着できません。しかし、大木が根返りを起こした場合、積もっていた落葉が取り除かれ、土壌が露出し、小さな芽生えの定着に適した環境となります。さらに、根が掘り起こされることで、平坦だった地表面に「盛り土」と「窪地」という微地形が創られ(写真6)、各々の環境に適応した多様な樹種の発生が促されます。

森は「死」と「再生」を絶えず繰り返しています。老大木の枯死は、残念なことですが、それはまた同時に、新たな若木の誕生へとつながってゆきます。

 

写真5

 

写真6

 

百年先を見据えた森の保全に向けて

糺の森は、数千年前の京都盆地、古代の山城原野を覆っていたムクノキ、エノキ、ケヤキが優占する落葉広葉樹林の植生を京都で唯一、今も残す貴重な場所です。百年、二百年先を見据えた森の保全策としては、林内で種子から芽生えたムクノキ、エノキ、ケヤキの幼木を後継樹として育ててゆくのが最も自然で理想的な形です。しかし、こうした芽生えの殆どは小さな段階で枯れてしまいます。従って、ある程度の大きさまで既に育った苗木を、今回の台風被害により形成されたギャップの下の日当りの良い環境に移植し、さらにはササ等に被陰されないように適切な管理を施しつつ育成を図る方法が確実かと考えます。

これからも糺の森での樹木調査を続け、「京都の誇り」、「日本の誇り」であるこの大切な森の保全のお役に立てればと思っております。

 

(田端 敬三     近畿大学非常勤講師)

平成31年3月31日

 

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