糺の森コラムColumn

Vol.4

史跡の保護と世界文化遺産

賀茂御祖神社は,皆様御存知のとおり,世界文化遺産「古都京都の文化財」を構成する十七社寺城の一つです。今年は富士山の世界文化遺産登録が巷間を賑わせましたが,世界遺産が制度上どのように守られているのかについては,意外によく知られていないようです。

世界遺産を担当していてよくある御質問の一つに,世界遺産に登録されると,ユネスコから保全のための資金援助があるのか,また一方で厳しい規制も課せられるのか,というものがあります。実はどちらもないんですよ,とお答えすると大抵の方が驚かれます。

世界遺産は,登録されてからユネスコの手厚い保護を受けるという仕組みではありません。それぞれの国内できちんと保護されているものを,世界全体にとっても価値あるものと宣言し,異文化を理解するための礎とする制度です。したがって,世界的視野において顕著な価値を有することとともに,自国の国内法で敷地全体がきちんと保護されていることが推薦の条件になっています。敷地は不動産ですから,文化遺産の場合,通常それを保証するのは文化財保護法に基づく史跡指定です。

賀茂御祖神社境内は昭和五十八年に史跡指定を受けていますので,この点はクリアしていました。その上で,国宝の東西両本殿を含め,京都の歴史と文化を語る上でなくてはならないということで「古都京都の文化財」の構成資産となったわけです。

では史跡とは何か,という質問もよく頂きます。一般的な意味では「歴史的な施設,または歴史的出来事のあった場所」ということですが,文化財の世界では,それを文化財保護法に基づき国が指定したものを言い,建造物や美術品で言う重要文化財に相当します。土地,建物はもちろん,それらが織りなす歴史的空間(境内景観)や地下遺構までを総体的に保護しようとするものです。

賀茂御祖神社におけるその取り組みの一つとして,現在進行中の摂社河合神社の透塀修理を,国庫補助事業としてお手伝いさせていただいています。建造物としては未指定ですが,「鴨社古図」にも描かれており,史跡たる境内の重要な構成要素であると考えられるためです。修理にあたっては,新材への取り替えを最低限にし,古い様式や工法を最大限守って進めていただいています。

二十年前,世界遺産は欧米の石造文化が中心で,木造建築は部材が更新されているから「本物」ではないという考え方が支配的でした。これに対し,一部の材は新しくとも,文化遺産としての価値はいささかも減じていないことを証明したものの一つが「古都京都の文化財」であり,それを支えていたのが,このような地道な作業の積み重ねでした。

その結果,今の世界遺産審査では,木や土の文化も,伝統を重んじ慎重に継承されたものならば「本物」と考えるのが当たり前となりました。

「古都京都の文化財」は,来年登録二十周年を迎えます

 

河合神社 透塀

 

(京都市文化市民局文化財保護課技師 堀 大輔)

平成25年10月1日

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